ピチカート・ファイヴ

「渋谷系」を代表する音楽グループ。 中心人物である小西康陽を軸に、幾度かのメンバーチェンジを経ているが、 一般的に小西康陽・野宮真貴の2人体制の時期が知られている。 その特徴的なポップミュージックは国内のみならず海外でも評価が高い。
couples B
Bellissima! A-
女王陛下のピチカート・ファイヴ B+
女性上位時代 B
Sweet Pizzicato Five C+
ボサノヴァ2001 B
Overdose C
Romantique '96 A-
Happy End of the World B+
プレイボーイ・プレイガール B
Pizzicato Five B-
さ・え・らジャポン B+

couples B

[総評]
1987年。小西康陽、高浪慶太郎、鴨宮諒、佐々木麻美子による、 ピチカート・ファイヴ「第一期」の唯一のアルバム。 80年代中期のネオアコ、ソフトロックシーンの系譜に連なるサウンドが特徴で、 アレンジの影響もあるのだろうが、全編を通して非常にソフトな印象を受けるアルバム。
後期のピチカート・ファイヴ、特に90年代以降のハウス系クラブミュージックを軸としたポップサウンドとはまるで異なる曲調だが、 (特に小西の手掛ける楽曲や、詞世界あたりは)後のアルバムにも底流するエッセンスが散りばめられている。 約10年後にリメイクされる「恋愛小説」や「サマータイム・サマータイム」、「そして今でも」 といった楽曲は後の小西サウンドの原型、といった雰囲気を感じさせる。

[ピックアップ]
サマータイム・サマータイム
★★★★★★★☆ 7.5

そして今でも
★★★★★★★★ 8

7時のニュース
★★★★★★★☆ 7.5


Bellissima! A-

[総評]
1988年。ORIGINAL LOVEの田島貴男がボーカリストとして加入、3人体制となってのアルバム。 「魂(ソウル)がない」「ソウルミュージックの上澄みだけを掬ったような作品」と当時の評論家から酷評され、 一方でメンバーには「遊び心が少ない作品」とされ自己評価もそれほど高くない不遇なアルバムではあるが、 その良くも悪くも「きちんとしたソウル風ミュージック」がこのアルバムの最大の特徴と言える。
先述したように不遇なアルバムだが手練れのソングライター3人による楽曲のクオリティは高い。 全体として落ち着いたトーンで、小西康陽のカラーが薄く、かつボーカリストである田島貴男作曲の作品が多い為、 むしろORIGINAL LOVE寄りの作品と言えるかもしれない。 ピチカート・ファイヴのディスコグラフィーの中ではかなりの異色作。

[ピックアップ]
惑星
★★★★★★★★☆ 8.5

誘惑について
★★★★★★★☆ 7.5

聖三角形
★★★★★★★★ 8

ワールド・スタンダード
★★★★★★★☆ 7.5

日曜日の印象
★★★★★★★☆ 7.5

これは恋ではない
★★★★★★★☆ 7.5

神の御業
★★★★★★★★ 8


女王陛下のピチカート・ファイヴ B+

[総評]
1989年。前作『Bellissima!』が「きちんとし過ぎていた」反動から、 遊び心にあふれたアルバムを作る、という目標のもと制作された「架空の映画のサウンドトラック」。 次作『女性上位時代』と並びピチカート・ファイヴの作風を語る上で重要なアルバムで、 後のボーカルである野宮真貴がゲスト参加している他、 このアルバムで追求した「遊び心」や「パロディ」といった要素がピチカート・ファイヴの音楽性の下地となっていく。
「映画好きで音楽マニアの集団がキャッキャ言いながら作ったようなアルバム」 という的確すぎる評がこのアルバムを端的に表現している。 音色自体は前作と地続きなのだが、 サンプリングやパロディが盛りだくさんでとにかく奔放な印象のあるアルバム。

[ピックアップ]
新ベリッシマ
★★★★★★★☆ 7.5

恋のテレビジョン・エイジ
★★★★★★★★★ 9

リップ・サーヴィス
★★★★★★★★ 8

〜b. スパイ対スパイ
★★★★★★★☆ 7.5

トップ・シークレット(最高機密)
★★★★★★★★ 8

バナナの皮
★★★★★★★☆ 7.5

衛星中継
★★★★★★★☆ 7.5

夜をぶっとばせ
★★★★★★★☆ 7.5


女性上位時代 B

[総評]
1991年。前作を最後に田島貴男が脱退し、 入れ替わる形で『女王陛下』のアルバムでゲストボーカルとして参加した野宮真貴が今作から加入。 ピチカート・ファイヴの作品の中で最も重要な作品と言え、 「野宮真貴のボーカル」「プレイガール的詩世界とハウスミュージックを軸にした曲調」「特徴的なインタールード」…等々、 ピチカート・ファイヴの作風が確立した作品。 これ以降のアルバムは全てこのアルバムの改作、と言っても過言ではない。
後の作品でもそうなのだが、この作品では特に全編に渡って「ボーカリスト:野宮真貴」をフィーチャーした作品。 一方フィーチャーが行き過ぎている感もあり(しりとりをするだけの曲とか、 インタールードのインタビュー等)ある意味マニア向けと言えなくもない。 野宮真貴ソロ曲のカバー「トゥイギー・トゥイギー」がこのアルバムのハイライトで、 ピチカート・ファイヴの作風を象徴する1曲。

[ピックアップ]
私のすべて
★★★★★★★☆ 7.5

お早よう
★★★★★★★☆ 7.5

サンキュー
★★★★★★★★ 8

トゥイギー・トゥイギー
〜トゥイギー対ジェイムズ・ボンド
★★★★★★★★★ 9

神様がくれたもの
★★★★★★★☆ 7.5

パーティ
★★★★★★★★ 8


Sweet Pizzicato Five C+

[総評]
1992年。前作で確立した作風はそのままに、よりハウスサウンドを全面に出したアルバムが特徴。 凝りに凝っていた『女王陛下』『女性上位時代』に比べると比較的シンプルなサウンドでまとめられており、 要所要所で入るサンプリングも含めて、90年代前半の渋谷系ハウス・ミュージックの典型といった感じの作品に仕上がっている。 ピチカート・ファイヴを語る上で重要なキーワードである 「キャッチー」「ファンキー」といった言葉が現れるのもこのアルバムから。
それまでのアルバムは「作りたいように作る」という作風だったが、 このアルバム以降はマーケットを意識して作り出した、とは小西康陽談。 今作ではまだ「マニアックなサウンド」感が抜けきれていないが、 次作『ボサ・ノヴァ2001』のポップサウンドへの助走期間、といった趣の1枚。

[ピックアップ]
万事快調
★★★★★★★☆ 7.5

ショック療法
★★★★★★★☆ 7.5

パリコレ
★★★★★★★★ 8


ボサ・ノヴァ2001 B

[総評]
1993年。小山田圭吾を共同プロデューサーに迎えたアルバム。 それまでは「知る人ぞ知る」的存在だったピチカートファイブだったが、 初のヒット曲「スウィート・ソウル・レヴュー」をきっかけに一般にも知られるようになる。 前作は比較的落ち着いたハウスサウンドが特徴だったが、 今作はより「にぎやかなパーティサウンド」を全面に押し出した作風が特徴。 一方でアルバム前半の小西、後半の高浪との音楽性の違いが表れたアルバムでもある。
前作で出たキーワード「キャッチー」「ファンキー」に加え「グルーヴィー」「ハッピー」といった、 ピチカート・ファイヴの持つパブリックイメージを決定付けたアルバム。 ちなみに1年後に小山田圭吾もパーティサウンド的な特徴を持つ『The First Question Award』を発表、 この時期の渋谷系的サウンドトレンドの共通項が見えて興味深い。

[ピックアップ]
ロックン・ロール
★★★★★★★☆ 7.5

スウィート・ソウル・レヴュー
★★★★★★★☆ 7.5

ピース・ミュージック
★★★★★★★☆ 7.5

ストロベリー・スレイランド
★★★★★★★☆ 7.5

スリーパー
★★★★★★★★ 8

優しい木曜日
★★★★★★★☆ 7.5

クレオパトラ2001
★★★★★★★☆ 7.5


Overdose C

[総評]
1994年。今作の発表前に高浪が脱退、よく知られる小西・野宮の二人体制となり、 解散まで続く「第4期」ピチカート・ファイヴとして初のアルバムとなる。 今作からサウンド面をすべて小西が手掛けることになり、 前作の「にぎやかなパーティサウンド」がより全体に渡って展開されている。 結果アルバム全体としての印象は、よく言えば統一感があり、 悪く言えばどれも同じような感じに聴こえてしまう、と言えなくもない。 アルバムタイトルを踏まえて、小西サウンドの「Overdose(過剰摂取)」的なアルバム。
ひそかにこのアルバムの収録曲でシングルとなっている楽曲は多く、 ピチカート・ファイヴの代表曲「東京は夜の七時」が収録されているのもこのアルバム。 シングル版に比べるとより落ち着いたアレンジがなされている。

[ピックアップ]
自由の女神
★★★★★★★☆ 7.5

東京は夜の七時
★★★★★★★★ 8

陽の当たる大通り
★★★★★★★☆ 7.5


Romantique'96 A-

[総評]
1995年。 「ポプリ(混成曲)」という1曲目のタイトルが象徴するように、 ハウスを軸にしつつ、ヒップホップ、テクノポップ、イージーリスニング、ラテン調と多彩な音楽が展開され、 最後は「コーダ」で終わるというコンセプトアルバム的な展開が特徴の作品。 前作の『Overdose』でも見られたように、 ピチカート・ファイブの曲はわりと「典型」があり、どれも同じような印象の曲が並ぶ、 ということがままあるのだが、今作では非常に多様化されている印象。 カバー曲が2曲あることや、テイ・トウワ、FPMといったハウス畑のゲスト参加曲があるのもその要因か。
アルバムを通してスキのない作品で、楽曲のクオリティという点ではピチカート・ファイヴ最高傑作であると思う。 ピチカート・ファイヴのレビューでテイ・トウワに言及するのもアレだけども、 ブリジット・バルドーの「コンタクト」をまんまクラフトワーク調にしてしまうのはテイ・トウワらしいな、と。

[ピックアップ]
めざめ
★★★★★★★★ 8

ジェット機のハウス
★★★★★★★★ 8

アイスクリーム・メルティン・メロウ
★★★★★★★★ 7.5

コンタクト
★★★★★★★☆ 7.5

キャットウォーク
★★★★★★★★★ 9

Good
★★★★★★★★ 8

トウキョウ・モナムール
★★★★★★★★☆ 8.5

悲しい歌
★★★★★★★★ 8


Happy End of the World B+

[総評]
1997年。 ジャングル、ドラムンベースを意識したビートを一部に取り入れたサウンドが特徴で、 意図的に90年代初期のハウス・ミュージックに留まっていたそれまでの作風から変化し、 珍しくトレンドフォロー的な楽曲が収録されている。
「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」「ベイビィ・ポータブル・ロック」 といったピチカートサウンドの典型といったシングル曲が収録されている一方、 ドラムンベース的ビートが印象的な「地球は回るよ」「愛のテーマ」があり、 サウンドの多様性との両立が図られているアルバム。 それとは別に「やりすぎ感」も一つのキーワードで、 過剰なまでに歌謡曲をパロディ化した「モナムール東京」、 それまでのアルバムにもあったナレーションベースの楽曲だが、 もはや行き過ぎて催眠音声のようになった「PORNO 3003」のような作品もあり、 全体として密度の濃いアルバム。 このアルバムあたりがピチカート・ファイヴのピークだったのではないだろう、か。

[ピックアップ]
地球は回るよ
★★★★★★★☆ 7.5

イッツ・ア・ビューティフル・デイ
★★★★★★★☆ 7.5

愛のテーマ
★★★★★★★★☆ 8.5

My Baby Portable Player Sound
★★★★★★★☆ 7.5

アリガト We Love You
★★★★★★★★ 8

私の人生、人生の夏
★★★★★★★☆ 7.5

ハッピー・エンディング
★★★★★★★☆ 7.5


プレイボーイ・プレイガール B

[総評]
1998年。 『Romantique '96』と『Happy End-』のアルバムがどちらかといえばサウンドに比重の置かれたアルバムだったのに対し、 今作では歌モノであることを意識して制作が行われた。 シングル版では非常にけたたましいオーケストレーションが特徴だった「大都会交響楽」も、 アルバムではボサノヴァ、ラウンジ風のアレンジに変化しているあたりに象徴されるように、 恐らく前作、前々作あたりでピチカート・ファイヴとしてやりたいことは一通りやってしまい、 テンションが落ちたというか、やや停滞期に突入してしまったような、そんな印象を受けるアルバム。
インタールード的作品の「インターナショナル・ピチカート・ファイヴ・マンション」で語られる "どうやらレコーディングは少し難航している模様です。なかなか新しい歌が創れないのでしょうか。"のセリフも、 わりと偽らざる心境なのではないだろうか、と思ったりする。 "ほんとに近ごろ不景気、ほんとに近ごろつまんない"・・・。

[ピックアップ]
不景気
★★★★★★★☆ 7.5

コンチェルト
★★★★★★★☆ 7.5

きみみたいにきれいな女の子
★★★★★★★☆ 7.5

大都会交響楽
★★★★★★★★ 8

華麗なる招待
★★★★★★★★ 8


Pizzicato Five B-

[総評]
1999年。 バンド名を冠したタイトルや、 この時期のインタビューでの小西の「煮詰まっていた」「スランプだった」発言、 ファーストアルバム収録曲のリメイクや、「グッバイ・ベイビイ&エイメン」 という題名の曲がアルバムのラストに配置されている…等々から察するに、 恐らくはピチカート・ファイヴ解散を念頭に置きながら作られたアルバム。
解散を意識しているからなのか、1999年という世紀末感から来るのかはわからないが、 アルバム全体になんとも言えない冷たさ、暗さが漂う。 ただ個人的にピチカート・ファイヴ全曲の中から1曲選ぶとすれば、 このアルバムの「野いちご」で、美しくもどこか物悲しいピアノフレーズが印象的な1曲。 (小西康陽本人はこのアレンジをそれほど気に入っていないと発言してはいるが)。

[ピックアップ]
戦争は終わった
★★★★★★★☆ 7.5

野いちご
★★★★★★★★★ 9

ダーリン・オブ・ディスコティック
★★★★★★★★ 8

20th Century Girl
★★★★★★★☆ 7.5

連載小説
★★★★★★★☆ 7.5

グッバイ・ベイビィ&エイメン
★★★★★★★☆ 7.5


さ・え・ら ジャポン B+

[総評]
2001年。多彩を通り越してカオスな面々が集ったゲストミュージシャンに、 ロック・ラウンジ・歌謡曲と雑多なジャンルがぶち込まれた楽曲群、 それらを「海外から見た『ジャパン』」という変化球すぎるコンセプトによって全体をまとめた、 とにかくてんこ盛りでカオティックなアルバム。 加えて「ジャパン」をテーマにしたアルバムに「ポケモン言えるかな?」や 「ふかわりょうの一言ネタ」なんかを入れ込むあたりに一筋縄では行かないセンスが伺える。
閉塞的な作風の反動からの遊び心に溢れたアルバム、 ということで『女王陛下のピチカート・ファイヴ』と近いところがあり、 自らのカラーよりもパロディ的側面を全面に出しているあたりにも共通点がある。 このアルバムで散々やりたい放題やった結果、 アルバム発表の4ヶ月後にピチカート・ファイヴは解散する。

[ピックアップ]
nonstop to tokyo
★★★★★★★★☆ 8.5

キモノ
★★★★★★★☆ 7.5

Fashion People
★★★★★★★☆ 7.5

ポケモン言えるかな?
★★★★★★★★ 8

12月24日
★★★★★★★★ 8

東京の合唱
★★★★★★★★ 8

さえら
★★★★★★★☆ 7.5


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