細野晴臣

はっぴいえんどやYMOなど、日本音楽シーンにおいて極めて重要なバンドを率いた。 ベーシストとしての活躍が主であるが、様々な楽器を弾きこなす。 ソロ作品はどれもメインストリームではないものの「時代を先取りした」 サウンドである事が多い。
HOSONO HOUSE B
トロピカル・ダンディー A-
泰安洋行 B-
はらいそ C+
コチンの月 C-
Phillharmony B
Making of Non-Standard Music A
S-F-X A-
Coincidental Music C
Marcuric Dance C-
Endless Talking D
omni Sight Seeing A-
Medicine Compilation B
NAGA C-
N.D.E C
HoSoNoVa B

HOSONO HOUSE B

[総評]
1973年。はっぴいえんど解散後初のソロアルバム。 はっぴいえんどから続くフォークロックサウンドが特徴。 はっぴいえんどは松本隆による詞世界が大きな特徴だったが、 このアルバムでは細野自身の詞世界を堪能する事が出来る。 『コンセプトも何もなくただ自分のやりたい事だけを詰め込んだから、 それほどこのアルバムに対して思い入れはない』とは細野の弁だが、 現在では名盤として高く評価されている。
全体的に穏やかな曲調が多い。 のちの『トロピカル3部作』に通ずるような作品や、 はっぴいえんどのような作品などが渾然一体となっている。 「恋は桃色」は様々なアーティストにカバーされた名曲。

[ピックアップ]
ぼくはちょっと
★★★★★★★☆ 7.5

恋は桃色
★★★★★★★★☆ 8.5


トロピカル・ダンディー A-

[総評]
1975年。ここからのアルバム3枚は『トロピカル3部作』として知られている。 「三時の子守唄」「漂流記」は「HOSONO HOUSE」の延長といったサウンドだが、 「Chattanooga Choo Choo」「絹街道」「北京ダック」といった楽曲には、 後の「泰安洋行」や、「はらいそ」に見られる、 多国籍ごった煮サウンドの片鱗が見られる。
「Hurricane Dorothy」「熱帯夜」「Honey Moon」は、 アルバムタイトル通りのトロピカル感漂うサウンドが特徴。 「Honey Moon」は後に「Medicine Compilation」にて、 アンビエント調にセルフカバーされた、心落ち着く良曲。

[ピックアップ]
Hurricane Dorothy
★★★★★★★★☆ 8.5

北京ダック
★★★★★★★★ 8

Honey Moon
★★★★★★★★☆ 8.5


泰安洋行 B-

[総評]
1976年。『トロピカル3部作』の2作目。 前作に見られたラテン音楽に加え、沖縄音楽や ニューオーリンズサウンドを大々的に取り入れているのが特徴。 多大な影響を受けた思われるアルバム『Dr. John's Gumbo』 (Gumboはニューオーリンズ発祥のごった煮料理)にかけて ちゃんこ鍋とファンキーを掛け合わせた『チャンキー・ミュージック』 と称するごった煮サウンドが全面的に展開されている。
「Roochoo Gumbo」はそのコンセプトを端的に表現していると言える。 落ち着いた楽曲があった前作に比べ、全体的に『こってり』している。

[ピックアップ]
Roochoo Gumbo
★★★★★★★☆ 7.5

泰安洋行
★★★★★★★★ 8

Exotica Lullaby
★★★★★★★★ 8


はらいそ C+

[総評]
1978年。『トロピカル3部作』の最後を飾る。 前作「泰安洋行」の流れを汲む多国籍ごった煮サウンドが特徴で、 前作までのラテン、ニューオーリンズサウンドに加え、 ガムラン、沖縄といったアジア音楽も取り入れた、集大成とも言える作品。 また、この作品からシンセサイザーが取り入れられている。 多くは主旋律を奏でる事はまだなく、補助的な使用に留まっているが、 「はらいそ」では間奏部において大胆に使われており、 またこの曲のラストの台詞『この次はモアベターよ!』とも合わせて、 後のYMOに対する確信めいたものが感じられる。
とにかく色々と多様なアルバムだが、 その分前2作に比べるとやや分散されてしまっている感がある。

[ピックアップ]
安里屋ユンタ
★★★★★★★ 7

はらいそ
★★★★★★★★☆ 8.5


コチンの月 C-

[総評]
1978年。YMO結成直前に作成された、 「細野晴臣&横尾忠則」名義のアルバム。 メロディからベース、効果音に至るまでほぼ全編シンセサイザーで構築されており、 YMO結成前にシンセサイザー使って色々実験してみた、 といった感じのサウンドが特徴。 また、この時期にインドを訪れており、 そこからインスパイアされたインド音楽風のメロディーがちりばめられている。
前述したようにアルバム全体に実験的要素が多く、 Kraftwerkの『Autobahn』後半のような作品が並ぶ。 「Hepatitis」「Hum Ghar Sajan」あたりは、 後のYMOでの「Simoon」に繋がるような作品。

[ピックアップ]
Hepatitis
★★★★★★★☆ 7.5


Phillharmony B

[総評]
1982年。「テクノデリック」「浮気なぼくら」の間に制作されたソロアルバム。 「テクノデリック」におけるキーワードだった、 『ミニマル』『サンプリング』という2つの要素を全面的に展開、 その中でも、テクノデリックでは十分に発揮されなかった、ミニマル色の強いアルバム。 主にミニマルを主体とする曲はテクノデリックのような硬質なサウンドで、 ポップな曲はBGMのようなエレクトリックサウンド、と言った印象。
童謡やCM替え歌で有名な「フニクリ、フニクラ」の名カバー、 後にセルフ・カヴァーされる「スポーツマン」はポップで良い。 「フィルハーモニー」はヴォイスサンプリング中心の、声楽のような曲。 わかりやすく言うならば(誰に?)『メテオス』の、 惑星スターリアのBGM。

[ピックアップ]
フニクリ、フニクラ
★★★★★★★★☆ 8.5

スポーツマン
★★★★★★★★☆ 8.5

フィルハーモニー
★★★★★★★★☆ 8.5


Making of Non-Standard Music A

[総評]
1984年。当時細野が立ち上げたレーベル『ノン・スタンダード』の1作目として発表された。 いわゆるA面とB面でサウンドコンセプトが異なっており、 1曲目は『ノン・スタンダード』と称し、 次作「S-F-X」に通じる、ビートの強いサウンドが、 2曲目以降は『モナド』と称し、実験的なサウンドが展開されている。 どの楽曲も、サンプリングを多用し曲が構成されている。
この当時、テクノロジーを活用したクリエイターとして最先端の存在であった細野は、 CMやアート作品に楽曲を提供することが多く、ここに収録されている作品も、 ナムコのCMやCG作品のBGMに使用されている。

[ピックアップ]
Non-Standard Mixture
★★★★★★★★☆ 8.5

Medium Composition;#2
★★★★★★★★★★ 9


S-F-X A-

[総評]
1984年。YMO以降のテクノポップ、エレクトロ路線の集大成というべきアルバム。 ハービー・ハンコック「ロックイット」の影響を感じさせるこの作品は、 サンプラーやリズムマシンによる、細分化された怒涛のサウンドが特徴。 細野はこの作風を「オーヴァー・ザ・トップ」と称した。 この作品以降、細野のソロアルバムはアンビエント志向が強まっていく。
音の洪水とも言うべき怒涛のサウンドの1、3、5曲目がこのアルバムのハイライト。 2、4曲目もミドルテンポながら細分化されたパーカッションが特徴的。 最後の6曲目は一転してアンビエント調のサウンドであるが、 逆に違和感なくこのアルバムに収まっている。

[ピックアップ]
Body Snatchers
★★★★★★★★☆ 8.5

SFX
★★★★★★★★ 8

Altarnative 3
★★★★★★★★ 8


Coincidental Music C

[総評]
1985年。アルバムタイトルを略すと”CM”になる通り、 当時細野が手がけたCMソングをまとめたアルバム。 この当時細野は『即興性』を重視しており、短期間でアルバムを制作し、 思いついたアイデアを即座に音にする、という制作方法が取られていた。
CMに使われた楽曲というだけあって印象に残るメロディーを持つ楽曲が多く (そこだけしかない短い楽曲が多いとも言えるが)、 また様々なタイプの楽曲が収録されている。 サウンドの多様性という意味で、 後の「omni Sight Seeing」の基礎となったアルバムといえる。 「Man of China」は後に「日本の人」としてセルフカバーされた。

[ピックアップ]
Pietro Germi
★★★★★★★★☆ 8.5


Marcuric Dance C-

[総評]
1985年。この作品と、「Coincidental Music」「Endless Talking」「Paradise View」 の3つを合わせた4作品を細野は『観光音楽』と称し、 環境音楽(アンビエント)を軸にしながら、 旅先で得た着想を音楽へ反映させるという方法で制作活動を行なっていた。
サウンドとしては、ブライアン・イーノのアンビエントシリーズの影響を受けたアンビエント。 後のアンビエント志向作品では、 メロディアスなものやアンビエントハウスに派生した作品が多く、 純粋なアンビエントサウンドがこの作品の大きな特徴。 アンビエント作品の常として、 作業用BGMや睡眠導入なんかには最適であるが、 じっくり聞くとなるとやや退屈。


Endless Talking D

[総評]
1985年。イタリアで開催された展覧会のBGMとして制作された楽曲をアルバムとして発表したもの。 「Coincidental Music」などで追求した『即興性』を更に突き進めた作品で、 たった1日で即興的に全ての楽曲を制作した、という逸話が残っている。 展覧会には「エンドレステープ」という、延々再生し続けるテープが使用され、 それがアルバムタイトルの由来となっている。
これまでの作風の流れを汲む、サンプリングを駆使したミニマルな電子音楽ではあるが、 即興性を重視した結果非常に実験的なサウンドとなっており、 メロディらしいメロディはあまりなく、細かなフレーズの反復が主。 というわけで、前作同様、作業用BGMとしては適しているかもしれないが、 じっくり聞くにはいささか微妙・・・というアルバム。


omni Sight Seeing A-

[総評]
1989年。前作までの『観光音楽』の集大成というべき作品。 Sightseeing(=観光)のタイトル通り、 民謡、アラブ風、アシッドハウス、環境音、ジャズのカヴァーなど、 様々な地域、ジャンルのサウンドを取り入れ、 当時盛り上がっていたワールドミュージックの要素を全面に出している。
細野晴臣最高傑作に挙げられることも多いこの作品であるが、 「銀河鉄道の夜」に収録された「プリオシン海岸」のリメイク「Pleocene」が素晴らしい。 これ1曲でこのアルバムが細野晴臣最高傑作であるとしてもよい程の名曲。 その他の曲も、粒ぞろいに良曲が揃っている。

[ピックアップ]
Andadura
★★★★★★★★ 8

Orgone Box
★★★★★★★★☆ 8.5

Pleocene
★★★★★★★★★☆ 9.5


Medicine Compilation B

[総評]
1993年。前作「omni Sight Seeing」が『観光音楽』の集大成ならば、 この作品は『アンビエント』の集大成的作品。単なるアンビエントではなく、 アンビエントハウス、アンビエントテクノの手法を取り入れつつ、 前作までのワールドミュージック的手法も取り入れることによって、 いわゆる『ヒーリング・ミュージック』的作品に仕上がっている。 ちなみに、このアルバムと同時期にYMOの「テクノドン」が発表されている。
「トロピカル・ダンディー」に収録された「Honey Moon」のリメイクと、 「パラダイスビュー」に収録された「Mabui Dance」の続編である 「Mabui dance #2」の2曲が良い。 全体的に、やや暗めの楽曲が多く、 同じアンビエントテクノ路線だったテクノドンとは対照的な仕上がり。

[ピックアップ]
Honey Moon
★★★★★★★★★ 9

Mabui Dance #2
★★★★★★★★☆ 8.5


NAGA C-

[総評]
1995年。92年から95年にかけて、テレビ番組で使用された楽曲を収録したもの。 制作時期が前作と近く、サウンドはアンビエント主体であるが、 ほとんどが東南アジア(インド、ネパール)の紀行番組に使用された楽曲のため、 アジア的雰囲気を漂わせる楽曲で構成されているのが大きな特徴。 アルバムに「Music for Monsoon」というサブタイトルが付けられていることからも伺える。
このアルバムの印象を簡単に言うならば「ゲームの神殿・砂漠BGM集」という感じだろうか。 特に前半3曲にその印象を強く感じる。 「Angkor Vat」は、前作に収録された「Mabui Dance #2」のフレーズを用いアレンジした曲。

[ピックアップ]
Angkor Vat
★★★★★★★★ 8


N.D.E C

[総評]
1995年。ビル・ラズウェル、ゴウ・ホトダ、寺田康彦との共同制作。 アンビエント志向作品群としては最後発であり、 これ以降はSwing Slow、ハリー&マック等のコラボレーションユニットを経て、 カントリーやフォーク路線へと回帰していくことになる (HAT、スケッチ・ショウといったテクノ路線も残しつつであるが)。
「Medicine Compilation」や「テクノドン」の路線を延長したようなアンビエント・ハウス、 アンビエント・テクノのアルバム。 「Heliotherapy」の透明感溢れるサウンドが秀逸。 アンビエント・テクノの名曲として挙げられても良いほどの名曲。

[ピックアップ]
Heliotherapy
★★★★★★★★★ 9


HoSoNoVa B

[総評]
2011年。『「Hosono House」以来38年ぶりの全編ボーカルアルバム』 というキャッチフレーズの通り、細野のボーカルをフィーチャーし、 それ以外のサウンド(ギターやパーカッションなど)は極めてシンプルに構成されている。 2000年代後半からの細野作品における、 フォークやカントリーサウンドの流れに乗ったアルバムで、 50年代〜70年代のカヴァー曲がいくつか収録されているのも特徴。
全編を通してのどかな歌声とサウンドがゆったりとしたテンポで響く、非常に穏やかなアルバム。 ある意味、アンビエント期の作品以上に睡眠導入音楽と言えるかもしれない。 チャップリンの名曲「スマイル」のカヴァーが良い。

[ピックアップ]
ラモナ
★★★★★★★☆ 7.5

スマイル
★★★★★★★★ 8

悲しみのラッキー・スター
★★★★★★★☆ 7.5


←back