所変わってアヤルバムス。 いにしえはカーラントの作る「筆」を取りに来た。 全身をローブで包んだカーラントが待っていた。 「秋無の弟子です」 「よく来たな」 「・・・とりあえず、これを。」 といって、金を差し出すいにしえ。 「うむ。」 「・・・筆は」 「ああ、これだ。」 筆を差し出すカーラント。 「すばらしい出来ですなぁ。」 いにしえはニヤリと笑った。 金が弾ける。 そう、いにしえは爆弾を差し出していた。 ・・・しかし、カーラントもニヤリと笑った。 「私の名が知れていない理由・・・分かるかな?」 「知ったことか」 「・・・私のことを知っているのは君だけであってほしいからな。」 「どういう意味だ」 高笑いをすると、カーラントはローブを投げる。 ・・・そこには、髪が血の色をした・・・ Dr.Fが立っていた。 いにしえは呆然としていた。訳が分からなくなった。 Dr.Fが首を掴んで言う。 「殺さないでやったのだから幸運に思え。 お遊びもほどほどにしろ。私の名が、国の名が穢れるではないか。 ・・・なぜ殺さなかったのか、分かるか」 「し、知ったことか」 「君に絵師としての才能があるからだ。 筆のために使えるやつと思って生かしておいたが・・・ 無駄なようだ。お遊びが過ぎている。」 そんな風に思われて・・・コマとして動かされていたなんて。 いにしえは心に深く傷を負った。自分が自分として生きることを否定された気がした。 「・・・用も無いな・・・今ここで殺してしまおうか・・・ ・・・いや、殺すには惜しい・・・せめて情報だけでもいただいておこうか・・・」 「・・・」 いにしえは言葉が浮かばなかった。 とりあえず、いろいろ聞き出すためDr.Fは首を離した。その隙にいにしえは筆を使い消えた。 「チッ、逃げられたか」 ・・・といいつつもDr.Fはニヤけていた。まだコマとして動かすつもりなのだ。 いにしえはとっさの行動だったため、自分がどこにいるか分からなかった。 ・・・一応、森の中なのがわかった。 ・・・もう、そんなことはどうでもいい。ヤツの近くでなければ、もう。 ・・・いにしえは考え直した。 「Dr.Fだけじゃなくて、みんな私を置き去りにしてる・・・ みんながそうなんだ、じゃなきゃ一人になんかならない。 ・・・人間関係なんか真っ平だ。」 ため息をつき、筆を首にあて、しゃべれなくしてしまった。 「(もう、これでいいんだ・・・ ・・・とりあえず、今日はもう寝よう)」 小さく光る星の下、いにしえは頭の下に手を組んで寝た。 静かな、不気味な夜だった・・・。