「ふむ、あいつらは城に戻ったか」 ゾーラ2とルイージの孫から逃れたノーパこと、いにしえが呟く。 彼は元ドクタースリーフの国民であった。 既に重罪を犯しているので、爆弾の一つや二つなんか彼にとってはどうってことではない。 そして、通信機を取り出しアヤムバルスにいる、あまり名の知れていない絵師であるカーラントに、 「この前注文した筆は出来上がったか?秋無師匠が首を長くして待っていたぞ」 「あぁ、できたぞ。で、いつ取りに来るんだ?」 「ん、今そちらに向かう。20分くらいはかかるかな」 「分かった。あ、金だけは忘れるなよ」 「もちろんだ。では…」 そう言って通信を終えた。彼は、秋無の弟子である、と嘘をついたのである。 「にしても、やはり人と話すのはどうも慣れないな…はぁ。…悪ぃな、秋無。勝手に名を使っちまって…」 と、また呟く。溜め息交じりで。そしてカーラントのところへ向かった。 ゾーラ2とルイージの孫は、城に着いたところだった。 「さて、傷の治療をしないとなぁ」 ルイージの孫はそう言い、ゾーラ2を担いで治療室のベッドに寝せた。 「すまない…」 ゾーラ2は自分のミスせいでノーパを、いにしえを逃がしてしまったことをとても気にしていた。 ルイージの孫はゾーラ2の止血をし、包帯を巻いた。 沈黙が長く続く。と、そんな中治療室に人が入ってきた。 「お、帰ってきてたんだな。無事で何よりだ」 「あなたは…やまりっく殿!どうしてここへ?」 ゾーラ2はやまりっくに聞いた。 「作業してたんだがな、ちと指を切っちまったんだ。それで傷薬を取りに来たわけだ」 そう言って戸棚から傷薬を取り出して手早く塗った。そして元の場所に戻した。 「任務も大事だが、何と言っても身体を大事にしろよ」 と言って出て行った。 「さて、俺も報告しに行ってくるか。じゃ」 ルイージの孫も出て行った。 ルイージの孫が向かったのは王の間。 そこにいたのは椅子に座っていたさんたろうだけだった。 「ご苦労であった。何か手がかりとかはつかめたか?」 「申し訳ありませんが、全く…。いにしえを追った時にゾーラ2がケガをしてしまったもので、引き返して来ました」 「…!いにしえだと!?彼は一年前に追放されたが、何故そこに…。きっと、何かありそうだな…」 「そのようですね。では、もう一度行って来ま…」 「いや…今は休め。無理するな」 「はっ。それではこれで…」 ルイージの孫は王の間から出て行った。 「きっとこの大陸では何かが動き出しているに違いないな…しかし、一体何が…」 とさんたろうは自分しかいない王の間でそう言った。 一方、ドクタースリーフ王国。 今の季節は夏。この国にとって最も辛い季節。毎日が真夏日なのである。 そしてここは、秋無の経営している美術館。外とは違って中はとても涼しい。 秋無はPICHAで書かれた絵を展示しているところだった。 「よし、これでいいかな。やっぱり絵は良いねぇ」 と、展示したばかりの絵を見て言った。 ウィーン… 自動ドアが開いた。中に入ってきたのはひものだった。 入ってきて早々、 「秋無、くじらが呼んでいるぞ」 と言った。 「くじらが?…分かった、今行くよ」 そして二人は城にいるくじらのところへ向かった。 くじらは、ドクタースリーフ王国の筆職人である。彼の創る筆は属性攻撃の威力を上げる効果がある。 そのため、属性攻撃を持つ絵師にはとても高値で売れるのである。 「で、用は何だい?」 秋無はくじらに聞いた。 「何だい?…って忘れたのか?これを!」 と、呆れながら机の上にあった『ある物』を見せた。 その『ある物』を見た秋無は目を丸くし、やっと思い出した。 「あ!この前注文した筆か。悪い、すっかり忘れてたよ。それで、出来は?」 「久々の良い出来だ。属性攻撃には絶大の効果を発揮する。少々重いがな」 「確かに少し重いね。でも悪くない。じゃ、俺は帰るとするか」 「ちょっと待て。代金は!?」 「あ、そうだそうだ。ハイこれ」 筆の代金を手渡した。 「確かに受け取った。じゃ、またな。それと…いにしえがあの森に現れたそうだ」 ボソリと秋無に囁いた。 「…そうか。こりゃぁ何かありそうだな」 「…そうだな…」 秋無は、じゃあまたヨロシク、と言って出て行った。 (そういや、いにしえがこの国から追放されてそろそろ1年か…早いものだ…) と心の中で呟き、城を後にした。 --------------------------------------------------------------------------- 第3話を訂正したやつです。 いにしえさんの設定とかみ合わないところがあったので、そこを直しました。 あとは最初と変わっていません。