この世界は、優しく母なる綺麗な色で囲まれて そんな世界の人たちは、燃える欲望を持ち、 あの空には気まぐれな風と、賑やかな星たちによって彩られ どの時代の世界も、地球と月はずっと静かに見守ってきた。 世界はこんなにも綺麗な色で満ち溢れている。 ――― いきなりですが、私ピンチです。 「はぁ… はぁ…」 森の中を一心不乱に、一生懸命息を切らして今までで一番本気を出して走った。 走ることは得意じゃない。むしろ苦手。これでも一応兵士の身分なのに鈍足ってのは自分でもおかしいと思う。 それに格好はもっとおかしい。任務中なのに服は動きづらいメイド服のようなひらひらしたスカート。足元はニーソックスにサンダル。 髪は中途半端に長い上に、リボンでまとめようとするでもなくそのままにしていた。そのせいで走るたびに髪が顔にかかってきてうざったいしいちいち払いのけなきゃいけない。自業自得っていう言葉が今ほどぴったりな状況は今まで生きていた中で無かった。 もっと動きやすい格好にすればよかった。髪はまとめておけばよかった。 常に様々な状況に備え、万全の準備をする。兵士として当たり前の行動なのに「まぁ、なんとかなるだろう」と甘い考えを持って 見た目はせめて16歳の可愛い女の子らしい衣装を。そんな考えを持った30分前の自分をぶっ飛ばしたい。 今となっては後の祭り。後悔先に立たず。転ばぬ先の杖はとても重要。 先人の教えの偉大さを噛み締める余裕もなくがむしゃらに走った。 しかしその姿は他の人から見たら、迫ってくる木々や深い草むらを、颯爽と言う言葉には程遠い身のこなしでよいしょよいしょとと一生懸命に避けつつ、 なおかつ地面を蹴っていると言うより足の裏を地面にバタバタと叩きつけながらフラフラしているようにしか見えないんだろう。 「うぅ・・・苦しい・・・」 体力不足で運動音痴の私は限界をとっくの昔に100ほど超えていた。 いきなり私の片腹に重りが乗った。その上、下手クソな走り方とクッションの全く無い底の薄いサンダルのお陰で足の裏も痛くなってきた。 痛みへの耐性も、そもそもの持久力も人並み以下に低い私は、二つの痛みからの解放を求めて足を止めてしまった。 「はぁ・・・ はぁ・・・ もう駄目」 手をひざに付けて大げさに見えるくらいはぁはぁと息を吐いた。心臓はバクバクいっていて息をするたびにのどに鋭い痛みが来る。 それでもわき腹と足裏は痛いまま。走り続けたほうがまだ楽だったかもしれない。 「アルテさん! そこで止まっちゃ駄目です!」 後からの人の声に、はっとした。 そうだ、私。敵から逃げてる途中だったんだ。 あまりにも一生懸命走りすぎて、走っていた理由を忘れてた。 救いようの無い馬鹿だ。 もう、どれだけ自分が馬鹿かという理由は全力疾走してる時に再認識し、反省してたはずなのに。まだまだ自分が馬鹿から大馬鹿になれる余地はあったのか。 否、私は馬鹿でも大馬鹿でもなく、世界遺産級の馬鹿だった。 悠長にも後ろを振り向くと自分の死が目の前に広がった。 獣方の魔獣、ウルフがその巨大な口の中を大きく開いて私の頭をかみくだこうとしていた。 「あ・・・」 死がほんの目の前にあるとき、人間は時が止まったような錯覚に陥り、脳の中に走馬灯が流れる聞いたことがある。 後になってわかることだけど、確かに思い返せば私の頭の中では任務を舐めきって浮かれている32分前の世界遺産級の馬鹿の姿が走馬灯で流れてた。ようなきがする。 死ぬときって痛いのかな。痛いのはいやだな。 せめてウルフの鋭くて汚い唾液にまみれた大きな牙を見なくてすむように目を瞑り、静かに死を覚悟した。 さよなら、私の人生。 さよなら、私の好きな世界。 … いつまでも痛みが来ない。 死ぬ時って痛くないんだ。じゃあもうここは天国かな。 天国ってどんなとこなんだろうなぁ。雲の上なのかな。キラキラ光っているのかな。やっぱり天使がいるのかな 甘いものがいっぱいあったらいいなあ。 そんな馬鹿な妄想をしながら目を開けてみると、そこは雲の上でもキラキラも光ってもいないさっきまで私が一生懸命走っていた暗い森で、 足元には、天使ではなくナイフが背中に深々と突き刺さって絶命しているウルフの姿があった。 私だけその場で時が止まっていたみたいだった。瞬きすらできず目の前の凄惨な光景がただのヴィジョンに映された作り物の映像にしか見えていなかった。 しかし、その光景は決して精巧な作り物の映像でないことをいつの間にか私の隣にいた男の人の声で証明された。。 「投げナイフが間に合ってよかったです。どうしても森の中の木が邪魔で・・・。アルテさんがもうちょっと走ってくれれば安全にウルフを倒せたんですが。」 その声の主、はぁはぁと息を切らしながら私の今日の任務のパートナーである紅桜さんが私に手を差し伸べた。。 「怪我はありませんか?」 「うわぁあああああああん!!怖かったですよー!!!」 紅桜さんの大きな手を握った瞬間、私は一気に緊張が解けてそのまま泣きついてしまった。紅桜さんはやれやれと思っているにちがいない。 でも彼は優しい笑顔で、もう大丈夫ですよと私の頭をそっと撫でてくれた。 第一章 1話目です。本当はまだもっと先まで書く予定でしたが自分自身が予想以上に忙しくなったのでこんな形になりました。ごめんなさい(ixi) 文章は見てのとおりクソです(!) でも頑張るしかないですね。